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数万人規模でキリスト者がイラクから脱出

 【アンマン(ヨルダン)=RNS・CJC】アンマンのハシュミ地区にあるラテン典礼カトリック教会、聖壇には簡素な木の十字架が掲げられ、マリアとキリストを描いた絵が飾られてあり、そこで昔ながらの言語でミサが行われている。この教会にイラク人キリスト者が押し掛けている。最近の日曜日には約200人の参列者があった。故国イラクから離れたイラク人キリスト者にとって、ここは安全な場所なのだ。
 無法状態とイスラム原理主義の激化を恐れて、多数のイラク人キリスト者が隣接しているヨルダンとシリアに脱出している。サダム・フセイン政権の崩壊以来、イラクのキリスト者75万人の中で国外に脱出した人の正確な数は分からないものの、数万人規模に達していると見られている。
 イラク国内での抑圧状況については、キリスト者自身の中でさえ論議があるが、国外脱出者が続出しているのを見ても、恐怖にさらされていること自体は否定出来ない。バグダッドとモスルでの教会爆撃はその恐怖をあおることになった。実情はアンマンではつかめないが、さらに厳しいもののようだ。
 ミサに出席していたサミル氏は、バグダッドから脱出して来たビジネスマン。家族への報復を恐れ、実名を明かさないとの条件で、シーア派過激派に誘拐され、家族が身代金を支払って釈放されるまで拷問を受けた実情を語った。
 「機関銃を持ったギャングが私の店に来て、私を自動車に押し込め、車内に9日間も入れられたまま。身代金として20万ドルを要求していた。繰り返し殴打され、身体全体に熱湯を掛けられた。家族が結局5万ドル支払って釈放された」と言う。
 50代半ばなのに、サミル氏は今や杖をついて歩くようになり、やけどの跡もはっきり見える。家族とヨルダンに逃げて来たが、ここでは仕事を見つけられないので、最終的にはオーストラリアへ行きたいと言う。
 サミル氏や最近到着した避難民は、過激派がキリスト者を狙うのはカネ目当てであり、またキリスト者が所有している酒、ファッション、音楽関係の店を不快な存在として閉鎖させようと狙っているのだ、と語る。
 ただ最近アンマンにたどり着いたベルナデット・ヒクマットさんは、イラク人キリスト者は平和的であり、過去2000年もの間イラクで目立った存在ではなかったのに、今になって襲撃される理由がないと言う。
 イラクのキリスト者は総人口2500万人の約3%。その大部分はカルデア典礼カトリックで、ローマ教皇の権威は認めているものの自治的な教会に属している。他にローマ・カトリック(ラテン典礼)、シリア典礼カトリック、ギリシア正教会、ヤコブ派、アルメニア使徒教会、ネストリウス派など古代東方教会、長老派、英国国教会、福音派などが存在する。
 「イラクのキリスト者は乱暴な行為を扇動してはいない。しかし、スンニ派やシーア派と異なり、自身を守り支持してくれる大部族もない。キリスト者が狙われるのは、イスラム原理主義の高まりの中で米国など西側と協力していると疑われるからだと思う。もちろん、事実でないが、この見方が私たちの問題を難しくしている」と言うヒクマットさんは29歳、公務員だった。
 シーア派の最高指導者アリ・アル・シスターニ師は教会襲撃を「忌まわしい犯罪」と非難する。それでも、イラクの移住担当閣僚は、キリスト者の大量出国が続いている、と指摘した。
 すでに4万人が出国したとの見方もあるが、アンマンに拠点を置く国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のイラク担当者は、その数字には根拠がないと言う。
 脱出者の多くは難民申請をUNHCRにではなく、落ち着き先として希望するオーストラリアやカナダの大使館に直接行く。宗教上の迫害ということが認められると、難民認定が速やかになされる、と信じられているようで、そのことも脱出者の数をUNHCRが把握出来なくしている、と言う。
 ヨルダンにある中東教会協議会の避難民コーディネーターも、直接援助を要請して来たイラク人キリスト者はいないと語った。イラクからの脱出者は、ヨルダンに来ると、自派の教会共同体に住宅や食物などの援助を求める。アンマン・ハシュミ地区のカトリック教会のライモンド・ムシリ司祭は、同教会だけで約7000人の脱出者を受け入れた、と言う。
 ダマスカスで活動している国連難民機関によると、シリアには約4000人のイラク人キリスト者が入国した。しかしイラクに留まる道を選ぶキリスト者もいる。ただイラク情勢がどう変化しようと、多くのキリスト者の中の恐怖と懸念が解消するとは断言出来ないことは確かだ。□

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