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米大統領選で露わになった民主・共和両党間の「神ギャップ」

 【ワシントン=RNS・CJC】ジョージ・ブッシュ米大統領が再選された今回の選挙で「信仰」が影響したことは確か。「出口調査」に基づく分析では、民主・共和両党間の「神ギャップ」とでも言うべきものが浮き彫りになった。主要な宗教グループのほとんでに共和党支持が広がり、これまでは民主党の強力な支持層だった黒人プロテスタントにまで共和党が食い込んでいる。
 公共放送PBSテレビの「週刊・宗教と倫理ニュース」番組のために行われた出口調査によると、礼典によく出席する人ほど、ブッシュ氏に投票する傾向が見えた。一方、自分を「世俗的」とした人や無宗教の人はほとんどがジョン・ケリー氏に投票した。これは前回2000年の選挙で示された傾向を踏襲している。
 「宗教ギャップが一層明確になった。これは今後数年間の米政治の特色になろう」と、アクロン大学のジョン・C・グリーン教授が同番組で語った。同氏は宗教と政治に関する専門家。今回の選挙でブッシュ氏の勝利は、福音派とミサに常に参加するカトリック信徒を中心にした広範な「宗教連合」の支持を取り付けたことにあり、さらにそれ以外の宗派の支持も得ているという。
 白人の「ボーンアゲイン・プロテスタント」の大部分(78%)はブッシュ氏に投票した。1週間に一度以上教会に通う福音派の約86%もブッシュ氏支持だ。
 ただグリーン氏は、さらにブッシュ氏が主流プロテスタントの取り込みにも成功している、と指摘する。過半数がブッシュ氏に票を投じた。ただ実数としては2000年の時よりは微減した。「実際のところブッシュ氏は、1カ月に数回教会へ行く穏健・リベラルな白人プロテスタントを取り込むのに成功したようだが、これはケリー氏が欲しい層なのだ」と言う。
 大きな変化が起こったのは黒人プロテスタント。これまでは圧倒的に民主党支持の伝統があった。
 全体的に見るとブッシュ氏に投票したのはアフリカ系市民の約11%だけだが、黒人プロテスタントと認めた人で見ると16%に上っており、これは2000年から倍増。そして1週間に一度以上教会に通う人では22%と劇的に増加している。
 「接戦だったことからすると、民主党支持の中心グループに食い込んだのが印象的だ」と、グリーン氏は言う。
 カトリック票を見ると、今回ブッシュ氏は52%を獲得、自身カトリックのケリー氏は48%だった。2000年の選挙では、バプテストのアル・ゴア氏がカトリック票の半分を獲得し、ブッシュ氏は46%だったことからも、注目される数字だ。ケリー氏に対するカトリックの支持度合いは、同じくカトリックだったジョン・F・ケネディ大統領をはるかに下回っている。
 ミサにきちんと行く人の中では、数字はさらに明確だ。1週間に一度以上教会に通うカトリック信徒の58%はブッシュ氏に投票した。ケリー氏を多く支持したのは、ミサに決して行かないと言うカトリック信徒か、年間数回だけミサに出席すると言う人たちだけ。
 伝統的に民主党支持のスペイン系カトリック信徒の票の58%はケリー氏が獲得した。しかしブッシュ氏はここでも前回の僅か30%から39%と大きく得票を伸ばしている。
 「価値観の問題がブッシュ氏に有利に働いたのではないか。これはスペイン系カトリック信徒、特にニューメキシコやコロラドのような場所では非常に重要視されている」と、グリーン氏は言う。
 同様に民主党の有力基盤であるユダヤ人社会にも共和党が食い込んでいる。前回、ブッシュ氏の得票は2割だったのが24%に上昇した。
 最も劇的な変化はイスラム教徒にの動向。92%がケリー氏に投票、ブッシュ氏が僅か6%だった。
 2000年の選挙では、イスラム教徒の大部分がブッシュ氏に投票していたが、9・11事件以後の社会不安の責任を不当にも押しつけられた、と感じているのが変化の要因と見られる。イスラム教徒は現在登録者の1%を占めるだけだが、今後さらに政治的な影響力を増しそうだ。
 選挙登録者の約2%を構成するモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の信徒は圧倒的な共和党支持で、8割がブッシュ氏に投票した。
 ブッシュ氏の宗教界取り込みが広がる中で、福音派と保守的なカトリック信徒が決め手だ、と専門家は見ている。
 「ロナルド・レーガン大統領が始めた福音派プロテスタントの政治的動員は、この4半世紀に米国の選挙戦に起きた最も重要な変化だ。信仰者の多くが、自分たちの要求や関心を受け止めてくれる唯一の党は共和党だと見なすようになった」と、クレムソン大学のローラ・オルソン准教授は言う。
 多くのアナリストが、民主党と宗教界の大グループとの食い違い深刻化の証拠が数字に現れている、と指摘する。
 「米国人の約4割が毎週教会に通うことからすれば、民主党は、その人たちの関心にもっと敏感にならなければ、大統領を選出に苦労することだろう」と、キャルビン大学「キリスト教と政治に関するヘンリー研究所」のスティーブン・モンスマ氏は言う。「民主党がそのような道をたどりつつ、なおリベラルな立場を保つことは可能だが、ただそれはよほどうまくやらなければならない」と見ている。
 それに対してテキサス大学オースティン校のマーク・レグネルス教授は、民主党が国政選挙に勝てる唯一の方法は、妊娠中絶や同性愛者間結婚などの社会問題で、基本路線を再考することだ、として「党員にはショックをかもしれないが路線を修正すべきだ。今回の傾向から見ると、中絶反対の民主党だったら、多くの宗教保守派、特にカトリック信徒を取り込めただろうに、逆に民主党は彼らをかみ砕いて、吐き出し続けた」と語っている。□

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