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教皇トルコ訪問、EU加盟支持を表明、モスクで“黙想”

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は11月28日から12月1日までトルコを訪問した。イスラム国への訪問は2005年4月の就任後初めて。首都アンカラに到着した教皇は空港で、レジェップ・タイップ・エルドアン首相ら政府関係者の出迎えを受け、直後に空港内で首相と会談した。
 首相は会談後の会見で「イスラム教が平和と寛容、愛の宗教であると説明し、教皇はこれに同意した」と述べた。首相が欧州連合(EU)加盟に協力を求めたところ、教皇は「私は政治家ではないが、我々もトルコのEU入りを望んでいる」と語ったと言う。首相は当初、ラトビアで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議出席を理由に教皇と会談しない方針だったが、前日になって予定を変更していた。
 また、教皇はアフメット・ネジデット・セゼル大統領と会談した。教皇は会談でトルコのEU加盟を支持する考えを示したという。
 教皇は同日夕、アンカラでトルコのイスラム教権威であるバルダックオウル宗教庁長官と会談した。教皇は、両宗教は世界の平和と公正を求める点で一致している、と述べたものの、この9月にドイツ訪問の際に行ったイスラム教と暴力に関する発言については言及しなかった。会談後、教皇は「キリスト者とイスラム教徒が互いの違いと共通点を尊重し、真実と相互理解への真摯な願いをもって真の対話を行うことが将来に向けた最善の道」と述べた。一方、長官は対話の必要性を認めたものの、「イスラム教が暴力を包含し、奨励しているかのような認識が徐々に増幅している」と述べた。
 教皇は29日夕、イスタンブール入りし、聖ジョージ教会を訪れ、東方正教会の最高指導者コンスタンチノープルのエキュメニカル(普遍的な)総主教バルトロメオス一世の歓迎を受けた。
 教皇の今回訪問の本来の目的は、東西キリスト教会の融和に向け、さらに対話を進めることにあった。
 総主教が「愛する兄弟よ」と呼び掛けると、教皇は「ともに神に祈れることを幸せに思う」とあいさつし、両者は東西教会の一体感を強調した。
 教皇は30日、バルトロメオス一世と共同宣言を発表、「欧州はキリスト教的ルーツや価値観を保ちながら統一しなければならない」と、EUの精神的基盤をキリスト教に置くべきだとの立場を強調した。宗教指導者同士の声明で政治問題に触れるのは異例。
 共同宣言は「人権、とりわけ宗教の自由を必ず考慮すべきだ」と指摘、イスラム教徒以外の権利も尊重するようトルコ政府に暗に求めた形。
 トルコ政府は、総主教に対し、正教会全体の首位を示す「エキュメニカル」の肩書を認めず、「トルコ国内の正教会の総主教」と位置づけている。一方、正教会側は、総主教の財産の多くが接収されているとして少数者保護を訴えている。
 教皇はまたイスタンブールのスルタン・アフメット寺院(通称ブルーモスク)を訪れた。教皇のモスク(礼拝所)訪問は、ヨハネ・パウロ二世が01年、シリア訪問時に教皇として初めてモスクを訪問して以来のこと。バチカンは、今回のトルコ訪問の日程に、イスラム教への「敬意を示す」機会として、ブルーモスク訪問が追加されたと述べていた。
 教皇はイスラムの礼に従い靴を脱いでモスクに入った。イスタンブールのムフティ(イスラム法学の権威)のムスタファ・チャウルジュ師に付き添われ、歴史や建築様式などの説明を受けた。途中、同師が「我々は今、メッカの方向を向いています。よろしければ、ともに祈りましょう」と誘い、祈りを始めると、教皇は隣で、キリスト教の祈りの形を取らずに、約1分間にわたって頭を下げ、胸の下に両手を重ね、かすかに唇を動かし祈りをささげた。教皇は同師に「全人類と兄弟愛のために祈りましょう」と話したという。
 訪問後、記者団に「教皇はモスクで祈ったのか」と質問されたバチカンのロンバルディ報道官は、「黙想と瞑想(めいそう)の時だった。キリスト教的な特色のない、個人的な祈りということもできるかもしれない」と説明したが、訪問の様子はトルコのテレビ局が生中継。儀礼的なものに終わると予想されていたため、記者は「イスラム教への敬意が感じられた」と、教皇の異例の行動を歓迎している。
 これに先立ち、教皇は、アヤソフィア博物館を見学した。15世紀まではギリシャ正教の大本山で、その後モスクに改造され、1930年代に博物館になった建物。教皇訪問に先立ち、博物館敷地に、訪問に抗議する若者ら4人が突入し、警察官に取り押さえられる事件があった。このほか、数十人規模のデモが行われたが、大きな混乱はなかった。
 1日付のトルコ各紙は前夜の教皇のモスク訪問を大きく報じた。最大紙ヒュリエトは「メッカに向けて」との見出しで、教皇の写真を掲載。「キリスト教式で十字を切らなかったのもイスラム教に敬意を払った表れだ」と評価した。
 1日午前には、イスタンブールで教皇が宿泊しているバチカン関連施設近くのカトリック教会でミサを行った。午後、専用機でイスタンブールを出発、同日ローマに帰着した。

キリスト教界検索キリスト教界ニュース Last Update : 2006-12-05T01:18:06+09:00