韓国仏教界が宗教差別、と李明博政権に抗議

発信 : 2008年09月15日 (月) 01:30

 【CJC=東京】韓国の李明博政権に仏教界が"宗教差別"を訴えている。李政権が大統領をはじめキリスト教に偏重していると反発、李大統領に謝罪や是正策を要求し、全国的に集会やデモを繰り広げた。
 8月27日には、曹溪宗、天台宗、太古宗、真覚宗、観音宗など仏教27教団や団体などで構成される『韓国仏教宗団協議会』と『汎仏教徒大会実行委員会』が主催して「憲法破壊や宗教差別を行っている李明博政権を糾弾する汎仏教徒大会」を開いた。同日午後2時、ソウル市庁前の広場で、僧侶約1万人と仏教信者など20万人あまり(主宰側発表、警察推定では6万人)が出席した。
 大会のウォンハク常任実行委員長(曹溪宗総務部長)は、「かつて類のないほどの大規模な法会を開くのは、社会的な対立や分裂を終わらせるためのものである」と挨拶、「この席が現政権との対決を宣言する場とならないことを切に願う」と述べた。
 韓国キリスト教教会協議会(NCCK)の代表として出席した大韓聖公会の金グァンジュン司祭は、同じキリスト教信者である李大統領が宗教差別を行っていることに対し謝罪を述べ、「宗教の自由や平等権が保障される国において、いかなる理由であれ偏向的な宗教政策はあってはならない」と述べた。そして「今、われわれは現政府が再び過去の権威主義時代に回帰するのではないかという憂慮をぬぐいされない」としながら、「この大会を通じて現実が正されるよう願う」と述べた。
 大会に出席した僧侶や仏教徒約2万人は午後4時過ぎ、広場を出発、「公職者による宗教差別がまかり通る大韓民国は滅びる」といった文言を書いた旗を数百本掲げ、「釈迦牟尼仏」と叫びながら世宗路や普信閣(鐘閣)を経て曹渓寺まで行進した。主催者によると、全国の仏教寺院でも鐘を同時に鳴らしたという。
 31日には、韓国全土の約1万の寺で、キリスト者の李明博大統領が、プロテスタントを優遇する政策を進めているとして、信徒らによる抗議法会が開かれた。
 人口約5000万人の韓国で、キリスト者はカトリック・プロテスタント合計で1370万人とされているが、仏教徒も1000万人以上いる。キリスト者は上層階級や各界の指導層に多く、社会的に影響力が強い。李承晩初代大統領から李明博現大統領まで歴代大統領はキリスト者が圧倒的という背景もある。
 韓国のキリスト教は、近年の海外活動でも明らかなように、仏教界に比べ積極さが目立つ存在。プロテスタント長老派系の『所望教会』の長老の李氏が2月に政権の座について以来、仏教徒は、キリスト教を優遇しているとして懸念を示してきた。「政権人脈は教会人脈」とか「キリスト教共和国を目指している」といった声も聞かれる。
 曹渓宗は、ウェブサイトに、政府要職にプロテスタント系のキリスト教徒を起用するなど、キリスト教を優遇している可能性のある23件の事例を掲載した。
李大統領はソウル市長在任時、ソウル市を「神様に奉献」したと発言、大統領就任初期に政府の主要閣僚任命に際してもキリスト教偏重人事が目立った。3月にキム・ジノン・ニューライト牧師と大統領府で礼拝を行ったり、5月には純福音教会の朝食会祈祷会に参加しても、釈迦生誕日は無視したなど、仏教界の反発を招いたと見られる。
 チュ・テジュン前大統領府警護処次長が「すべての政府部署の福音化が私の夢」と発言があり、6月末、国土海洋部が管理・運営している首都圏の公共交通情報サイト「アルゴガ("知ってから行こう"の意)」が教会の情報は詳しいのに、曹渓寺のような寺社情報が脱落していることが分かり、仏教界の反発が激化し始めた。オ・チョンス警察庁長官が広告ポスターに汝矣島純福音教会のチョー・ヨンギ牧師と並んで登場してもいる。
 7月には米国産牛肉の輸入再開への抗議で指名手配されていた活動家が逃げ込んでいた曹溪寺で、警察が曹渓宗の高僧の車を寺院の外で止めてトランクなどを調べるなどしたため信徒が反発した。その後、警察庁長官が謝罪し、警察幹部2人を懲戒処分としたが、仏教側は、仏教指導者を犯罪者として扱ったとして警察を非難。長官の辞任を要求していた。