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詩でよむ近代:八木重吉 秋の瞳--純粋な魂と大正の世相
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5033 日 前
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八木重吉(1898~1927)は不思議な詩人だ。知名度も、文学史上の評価も、第一級というわけではない。結核のため29歳で死去し、詩集は『秋の瞳』(25年)と、生前に自選した『貧しき信徒』(刊行は28年)の2冊だけ。だが、没後に草野心平らの尽力でたびたび選詩集が編まれ、82年には全集も出た。
きわめて平易な言葉でつづられた詩編は、多くが数行の短いものだ。しかし、緊密な表現と、そこに懸けられた生の重みは並大抵ではないと感じさせる。
葉よ
しんしんと
冬日が むしばんでゆく
おまえも
葉と 現ずるまでは
いらいらと さぶしかったろうな
葉よ
葉と 現じたる
この日 おまえの 崇厳
でも 葉よ
いままでは さぶしかったろうな
(「葉」全編)
『秋の瞳』から引いた。一枚の葉に見いだした「さびしさ」と「崇厳」は詩人自身の思いの投影でもあり、彼が信じた神の顕現を示すものでもあろう。
重吉は今の東京都町田市で自作農の次男として生まれ、東京高等師範学校(現筑波大)で学んだ。在学中の19年、キリスト教の洗礼を受ける。兵庫県と千葉県で教員を務め、亡くなるまで信仰を貫いた。ストレートに神を求める内容の詩も数多く残したが、どの作品にも、純粋すぎる魂ゆえの「かなしみ」が漂っている。
では、その魅力は単に信仰や、晩年の死の予感に由来するものかといえば、そうではない。震えるような緊張をはらんだ表現は、詩人の生きた時代が強いた結果でもあると思われる。それは大正デモクラシーの自由主義的な風潮に乗り、キリスト教の伝道活動が活発化した時期だった。一方では米騒動(18年)が起き、第一次世界大戦後の恐慌による社会不安も広がっていた(菊地榮三他著『キリスト教史』)。こうした世相を背景に、キリストの「再臨」待望を説いた内村鑑三からも、重吉は感化を受けた。
詩作の初めは北村透谷に傾倒したという。透谷もまた、キリスト教を深く受け止めた早世の詩人だった。近代日本の文学者や知識人にキリスト教信仰が及ぼした影響は、まだ十分に論じられていないテーマである。【大井浩一】
毎日新聞 2011年2月9日 東京朝刊
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